【短】繰り返しの雨宿り


「さあな」




 はぐらかすように言って、彼はウィンクをする。うまく出来なくて両目を細めただけのウィンク。



 あまりにも可笑しくて、それ以上のことを聞けなくなってしまった。




「ここってなんなんですか? マスター」




 代わりにマスターに違う質問をぶつける。




「自殺者はここを出発して罰を受け、またここに戻る。繰り返し、何度もな」




 マスターは一度だけ目を伏せる。




「ここに来ると思い出すのさ。生前の記憶をな。普通は一杯の珈琲を飲んだら思い出す」




 マスターが男性を睨む。どうやらやってはいけないことをしてしまったようだ。
 いや、多分させてしまった。



 そういえば今日はいつもより饒舌だったように思う。

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