【短】繰り返しの雨宿り
しかし、男性はなかなか喋らない。急に居心地が悪くなって、私は店内を見渡す。
先程まで空いていた席がいつの間にか埋まっている。不思議に思いながらマスターを見れば忙しそうにカウンター内を歩き回っていた。
「ここって人気のお店なんですか?」
「そうでもないさ。ただ、必要な人が増えただけ」
「必要な人が?」
「マスターは休む暇がねえって嘆いてるけどな」
淋しそうに言う男性。
相手をしてもらえないから、こうして喫茶店通いをしているのかな、なんて想像をする。
「トマトジュース美味しい?」
唐突に問うものだから、私は口をストローに付けようとして止まる。
「ええ、とても」
常連客に本当のことを言えばマスターにも伝わるだろう。だから私はその場限りの言葉を落とす。