囚愛


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シイナと付き合って、何ヶ月か経った。



その日は、土砂降りで、傘を差してもずぶ濡れになる様な空模様。



土砂降りの中、いつものように彼らの練習スタジオに入る。





(あれ?今日は誰もいないのかな…)





静まり返るスタジオ内に、若干寂しさを感じつつも辺りを見回せば彼らの私物が置いてあった。





(良かった、いたんだ)





ガチャ、と音を立てて開く白いドア。



振り返れば、beautifly'sのメンバーの、1人の



Rionこと、唯世理音─タダセ リノン─が居た。



リオンくんは、私を視界に捉えるとにこ、と笑った。



そして、毎回恒例の、抱きつき挨拶。





〔おっはよ!レノアちゃーん!!〕





むぎゅ、と窒息しそうな勢いで抱きつかれる。



もともと細いシイナよりも小柄で華奢なのに、何という力だ。



苦しいよ、と言えば、パッと離れる身体。



無邪気に笑う、リオンくんに疲れつつ癒される。



シイナよりも私よりも、年下だからかな?



言動が幼く、スキンシップが激しいのだ。



まあ、本人は意識してなさそうだし…w



クスッと笑うと、〔あー、何笑ってんの!〕と頬を膨らますリオンくん。



可愛いな…



そう言えば、シイナはどこなんだろう?





〔ねえ、リオンくんシイナはどこ?〕



〔んー?しー兄は、他の皆とジュース買いに行ったよ??〕





しー兄、とは、リオンくんがシイナを呼ぶ時の愛称だ。





(じゃ、シイナ来るまで待とうかな。
久しぶりにリオンくんとも話したいし)





今思えば、不思議な事だったけど、シイナと付き合ってからはあまり、他のメンバーと話せなかったのだ。



私は、棒付きキャンディを食べるリオンくんの横に座る。



染めているのか、綺麗な赤い髪が視界に入る。



ぱっちり開いた2重の、大きな瞳に見つめられると知ったのは数秒後。



あまりにも、近い距離に自然と体が強ばる。





〔びっくりしたぁ、近いよーw〕





笑いながら、そう言えばリオンくんは棒付きキャンディを咥える。



そして、カバンからタオルを出すと、私の肩にかける。





〔何?〕





不思議になって聞き返せば、リオンくんは一言。





〔レノアちゃん、透けてる〕



〔え?〕





慌てて全身を確認すれば、確かに濡れた服から下着が透けていた。




(恥ずかしいっ///)




顔が熱くなっていくのが分かる。



リオンくんは、「風邪ひくよー」と私の頭をわしゃわしゃ拭く。





〔ちょ、リオンくんっ、痛いっ!〕



〔我慢我慢〕




ようやく拭き終わったのか、頭から彼の手が離れた。



リオンくんは、タオルをしまうと、今度は私の額に手を当てた。





(あ、熱ないか確認してくれてるのかな…)




それにしても距離が近いな、と思うも、リオンくんはまだ14歳。



2個しか変わらないけど、今の中2は大人びてるな…と、苦笑する。



リオンくんの手が離れ、額が空気に晒され涼しく感じた。




〔んー、分かんないや。〕




分からないんかい、とツッコミをいれるがこれがリオンくんだ。



天然で可愛いらしさが、売りの彼だからこそ許された性格。



それでも、身長は相変わらず高くて私よりも約20cm上の172cmだ。



そんな高身長に関わらず、メンバー内では割と身長が低い扱い。



全く、どうやったらこんなイケメン達が、集まるものだろうか。



そんな事を考えていたら、目の前の彼が長くかかった前髪を上げる。



そして、急激に距離をつめたと思ったら





〔っ!?//〕




彼の綺麗な顔が、目の前にあった。



近い距離に、綺麗な顔があるのはシイナで慣れているはずだ。



だけど、顔が熱いのが分かる。



唐突すぎて驚いたからだ。





(ち、近い)




リオンくんは、〔熱あるのかな??〕と中々離れない。



心臓が持たない、と心の警報が鳴る。





〔そろそろ、離れ─〔───何してんの〕





私の言葉を遮って聞こえてきたのは、今は一番聞きたくない声。



穏やかで優しい彼とは違う、冷たい声音だった。



恐る恐る振り返ると、こちらを見下ろす冷たい両の瞳。




〔シイ……ナ〕




彼の名前を口にすれば、ピクッと彼の眉が動いた。



怒ってる…。



威圧的なオーラに、圧倒されしばらく沈黙が続く。



彼は再び、口を開く。




〔何してんのかって、聞いてんだけど〕



〔レノアちゃん、寒そうだったから熱測っただけだよ〕




リオンくんが、私を庇うように前に出た。



が、そんなリオンくんの言葉を無視し、シイナは私の腕を掴んだ。



強く手を引かれ、腕が痛む。




〔痛っ…〕




顔を歪ませるが、彼は気づいていない。



シイナは、私の腕を引くと早歩きで廊下を歩き出す。



後ろで、リオンくんの声がした──。






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