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怖くて、悲しくて、押し潰されそうで、泣きそうになる。
グッと堪えて、顔を上げた。
きっと大丈夫。
そう自分に言い聞かせて。

もうあの家には戻れない。
男達も2度の失敗はしないだろう。
今度こそ逃げられなくなる。
兎に角、必要なのは食料と今日の寝床だ。
2日連続は少し酷だけれど、生きるためには仕方のないこと。
母が私に教えてくれたのは、こういう生き方。

電灯も少ない、暗い、細い路地裏。
今日も欲に塗れた男達が沢山いる。
食事付きの、1晩泊れるホテル。
今日も羽振りの良い男を探さなければ。

見渡せば1人だけ、良い恰好に身を包んだ男性がいる。
見た目からして、歳は30代後半くらいだろうか。
迷わず、その男性に取引を持ち掛けた。


「ねえ、おじさん。私にいくら出せる?」


やや痩せ型ではあるが、自分の容姿には自信があった。
今まで関係を持った男達から容姿を称賛され続けてきたからだ。
若い女、加えて容姿が優れた女にこの話を持ち掛けられて、断る間抜けな男はいない。
勿論、この男性も断るわけがないと私は自信を持っていた。
男は私の目の前に手をやって、5本指を開いた。


『5』


男は静かにそう示した。
期待した以上の額に目を輝かせる。
それだけあれば、当分は食事に困らない。
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