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「帰りたい……」


小さく、ぽつりと呟いた。
先程からしつこく頭に浮かぶのは、母と私の住むボロボロのアパート。
そこへ帰りたかった。


「何処にいるの、ママ」


恐怖と不安で泣きそうになりながら、無意識に足を進めていた。
母と私の家へ。
もしかしたら母が帰って来ているかもしれない。
そんな、ある筈もない期待を抱いて。

まだ夜でもないのに、空が曇っているせいで道は暗い。
雨が強くなる音がする。
傘に雨が当たるたびに、体の重みが増していく気がした。
そんな中、やっと家に辿り着く。
周りに誰もいないことを確認し、警戒しながらアパートの階段を昇る。
そっと玄関のドアを開いた。
玄関に靴はなく、人がいる気配はない。
念の為家の中に入って確認するが、やはりそこには誰もいなかった。
心の何処かでわかっていた筈なのに、現実を目の当たりにすることで心に深く深く針が刺さる。
悲しくて堪らないのに、不思議と涙は出なかった。


「いるわけ、ない」


急いで家から離れるが、何処に行けば良いのかわからずその場に立ち尽くしてしまう。
1人では何もできないことを痛感した。

ゴロゴロと雷が鳴り始める。
昔から雷は苦手だった。
雷が鳴ると、毎回母にピッタリとくっつき、離れなかった。
その時は母に面倒臭がられたが、母が私を無理矢理引き剥がすということはなかった。


「怖いよ、ママ……」
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