ColorLess
母を呼ぶのはこれで何度目だろうか。
呼んでも届かない、意味はない。
母は今頃寒さで凍えていないだろうか。
空腹で苦しい思いをしていないだろうか。
私と同じ、1人でいて寂しくはないだろうか。
そう心配してしまうのは、母にとっては余計なお世話だろうか。
私は母にとって、不必要な存在に変わってしまったのではないか。
そんな不安が先程から纏わりつく。
不安を打ち消すように走った。
何処へ行けば良いかなんてわからない。
今いる場所が何処なのかもわからない。

私には価値がない。
この世には不必要な存在。
母にも捨てられたとあっては、生きる意味さえも失ってしまう。

考えるな。
考えれば考えるほど苦しくなる。
だからただひたすらに走った。
雨に加え風も強くなり、傘は壊れて役立たずとなる。
石に躓き、思い切り転んだ。
体は濡れ、体の至る所から血が流れた。
寒い、痛い、怖い。

力を振り絞って顔をあげる。
その時、人混みの向こうに見覚えのある後ろ姿を見つけた。
少し明るめの茶髪に細い体、履いているヒールの靴には見覚えがあった。


「ママ!」


そう叫んで再び走り出した。
声は届いていないのか、母は振り向くことなく前を進んで行く。
母もきっと私を探していたはずだ。
私に会えたら涙を流して喜んでくれるだろうか。
そうだ、稼いだお金を見せたらもっと喜んでくれるかもしれない。
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