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母と男は怪我だらけ泥だらけの私を見下して笑っている。
そんな中、私の目は母の目をしっかりと見据えていた。

目の前にいるこの女は本当に母なのだろうか?
もし本当にそうだとしたら、私は母に捨てられた?
こんな母は知らない、母が私を捨てるわけがない。
私のその思いは願望に近い。


「あんたみたいな汚いガキ、私は知らない。近寄らないで」


そんな言葉を浴びせる母の気持ちが読めない。
いや、私が母の気持ちを理解できたことなど今まで一度でもあっただろうか。

気付けば私達3人は注目の的。
不思議そうな表情をして通りすがっていく人々。
中には「あの子可哀想」と私に対する同情の声も。


「ママ……。私、またお金稼いだよ。まだ役に立つよ。だから……」


そう言って万札を今ある分だけ差し出した。
雨に濡れてふやけてしまってはいるが、乾かせば問題なく使えるだろう。
母はすぐに万札を受け取る。
周囲の人々は、その光景を目の当たりにしてどう思っただろうか。

母が笑ってくれることを期待していた。
いつものように、『いい子ね』って。


「ねぇ、この子お金くれたよ!」


笑ってはくれたが、期待していた笑顔とは随分と違うように思えた。
母にとって私はもう必要のない存在かもしれない。
しかし私にとって母は必要不可欠な存在だった。
だから諦めない。
みっともなく泣きながら何度も母を呼んだ。
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