【完】☆真実の“愛”―見つけた、愛―1
「おはよう、沙耶」
沙耶と同じ漆黒の長い髪と、漆黒の瞳を持つ母親。
黒橋ユイラ。父の最愛の妻であり、絶世の美貌をもつ(父親談)沙耶の母親。
彼女は微笑みながら、沙耶に手を伸ばす。
「おはよ、お母さん」
挨拶を返せば、伸ばした手で沙耶の頭を優しく撫でるお母さん。
「寝癖がついていたわよ?」
魅力的な母親はそう言って、沙耶の寝癖を直すと、
「下、皆いるから。私は、健斗を起こしてくるわね」
と、沙耶の部屋よりも奥の部屋へと進んでく。
「ほーい」
お父さんがまだ寝ているということは、お母さんが起こしに行ったとしても、絶対に起きてこない。
それは、分かりきっていること。
父さんの“あっち”が目覚めて、“甘え”が始まるから。
「あ、おはよ~沙耶」
「湊、来てたの?」
「うん。昨日…いや、今日?仕事でね。午前二時とか、本当に殺す気かよってね…ま、暇だったから良いけどぉ~」
階段を降りていると、下からかかった声。
チャラ男全開な彼は、沙耶の父親の幼なじみであり、仕事の部下である夏川湊(なつかわ みなと)。
彼女はおらず、仕事のためだけに女関係を渡り歩いている男である。
「お父さん、仕事していたわけ?珍しいね、お母さんを置き去りにしてまで…」
沙耶の父親であり、母親のユイラを溺愛している黒橋健斗は、どこへ行くにも、ユイラを連れていく。
そんな彼が朝早くから、母さんをつれずに動くことは緊急の場合、あり得ない。
そんな沙耶の予想通り、湊は笑う。