【完】☆真実の“愛”―見つけた、愛―1
「健斗が動くわけないじゃん!メールで俺が動いたんだよ。本当、勘弁してほしい~お陰で、寝不足…」
「どうせ、女の人たちと過ごしてたんでしょ?それで寝不足とか…あの雰囲気じゃ、昨日の夜もお父さんとお母さんは蜜月だったわけね」
結婚して、少なくとも、20年以上経つのに、ラブラブな両親。子供としては喜ぶべきなのだろうが、どうもこう…釈然としない。
「うん、そうみたいだよ~まぁ、昨日はユイラが発作を起こしたしね。仕方がないと言えば、その通りなんだけど。ところでさ、沙耶、学校、何時から?」
「8時」
時計を見れば、現在、6時45分。
「お、意外とゆっくりできるね」
湊がそう言ったときである。
「…ただいま」
がちゃりと玄関が開き、現れたのは二人の兄。
兄といっても、義兄だが。
健斗とユイラの子供としては沙耶しかいないが、ある理由から戸籍上は健斗の息子ということになっている一人の兄。もう片方の兄は猶子に父親が取っているので、事実上、二人は沙耶の兄ということになる。
「沙耶、おはよ」
頭を小突かれて、顔をあげると戸籍上の兄、黒橋大樹が沙耶の側に立っていた。
「おはよ、大兄ちゃん。…また、春ちゃんのところにいたの?」
春ちゃんこと小栗小春は、近所に住む大兄ちゃんの幼なじみであり、面倒見が良く、密かに大兄ちゃんに恋心を抱いている可愛い人である。
悩んでいると話を聞いてくれるし、こうやって、大兄ちゃんがどんなことをしても、彼女は受け入れている。
「ああ」
そんな春ちゃんの事情を全く知らずに、兄はいつも通りに頷いた。
「勇兄ちゃんは?」
隣に立っていたもう一人の兄、松山勇真に視線を滑らせる。
「俺は麻衣子のところにいた」
パーカーを脱ぎ、大欠伸する勇兄ちゃん。
「…それは、本当の彼女かな?それとも、また、遊び?それと、大兄ちゃんにも言っているけど、いい加減、女遊び止めな。相手がいないなら、あれだけど…二人には、春ちゃんと麻衣ちゃんがいるんでしょ?」
麻衣ちゃんが勇兄ちゃんにとって、どれだけ大切な存在なのかは分からない。
分かるのは、大兄ちゃんが春ちゃんに依存しているということ。
「麻衣子は、大事にしているつもりだ。女遊びも止めた」
「俺だって、やってねーよ。春がいながら、できるわけねーだろ」
結婚という気配すらならない、共に28歳の義兄達。
「ま、結婚はお互いを縛るものだからね。二人がよく考えてからで良いんじゃない?」
縛られるのが嫌いで、一生涯、結婚するつもりがない湊は、台所から朝御飯を運んできた。
「そうでしょ?沙耶」
湊と一緒ということに不本意だが、沙耶も一生涯、結婚するつもりがない。
「そうだけど」
理由はいろいろあるが、最も強い理由としては、これ以上、周りを悲しませたくないことが理由。
結婚という単語を聞くたび、思い出すのは過去。
「それに、二人は二人なりにちゃんと考えてるよ。もうすぐ三十路にはいるし?」
どこか楽しそうな湊は、グリグリと勇兄ちゃんの頭を撫でた。
「…湊さん、何でそんなに楽しそうなんすか」
「え~?だって、生まれたときから知っている子供が、三十路だよ?三十路!なんか、感慨深いじゃん?」
そう言う湊は、今年で48歳。
彼は、中学生の時から父に仕えている。
「…言われてみれば、そうだね」
大兄ちゃんが生まれたとき、計算すれば、湊はまだ、
20歳だったということだ。
健斗が現在、51歳だから…
3歳差の幼なじみということになる。