華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
これは恋人のフリなんかではなく、心からの言葉。

それを聞いてほんの一瞬目を丸くしたセイディーレは、すぐに私から視線を逸らし、制帽を目深に被る。


「人のことより自分の心配をしてろ」


ぶっきらぼうにボソッと呟くと、さっさとダイニングルームを出ていってしまった。

ひとり残された私は、閉められたゴシックデザインのドアを見つめたまま、ため息を吐き出す。


「やっぱり冷たい……」


人の目がないところだと、いつもの愛想のないセイディーレだ。さっきは発言も態度も、あんなに甘かったのに。

普段の彼も、少しは優しくしてくれるようになったと勘違いしちゃってたわ。人間そう簡単に変わらないわよね。

なんとなく不満げに思いながら、私は口を尖らせてもう一度腰を下ろした。


 *


時計の針が午後七時半を指す頃、ダイニングテーブルの上にはたくさんの料理が並べられていた。

ポタージュやサラダ、豚のカツレツにパイ包み焼き。どれもとっても美味しそうだ。


「久しぶりのお客様だから、張り切っちゃいました。と言っても、そんなに手の込んだものじゃないけど」


ペロッと舌を出すチャーミングなアンジェさんに、私は目を輝かせながらぶんぶんと首を横に振る。

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