華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
アンジェはまたなにを言い出すの!


「ししししないから、そんなこと!」

「えー、だって今カップルの間では流行ってるって聞いたよ」


どこ情報よそれは!

真面目な顔をするアンジェと、その向かい側で興味津々といった感じで様子を窺うエトワルくん。ふたりの視線に困り果てているのは私だけじゃないはず。

そう、思っていたのに。

ふと気配を感じてアンジェのほうを向いていた顔を逆に向けると、セイディーレがすぐそばに迫ってきていた。

え、え、なに──!?

どぎまぎしているうちに片手で後頭部を支えられ、身を屈めた彼の整った顔が近づいてくる。

反射的にギュッと目を閉じると、前髪がくすぐるおでこに唇が触れる感覚がした。


「……行ってくる」


無愛想なのになぜか色気を感じる声でぽつりと囁かれ、すぐに手が離れていく。

ダイニングを出ていく彼を、私はぽかんとしたまま、ぽうっと頬を染めたふたりと一緒に見送る。


「素敵~! 映画のワンシーンみたい」

「やっぱりルリさんの前では閣下も甘くなるんですね~」


うっとりするアンジェと、感心するようなエトワルくんに背を向け、私は両手で頬を覆っていた。

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