華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
黄昏に迫る危険な罠
恋心を自覚し、これまで以上に複雑な気持ちで更衣室をあとにした。
今日はこれから敷地内にある菜園で野菜を収穫する予定だというので、私も手伝うと申し出ると、アンジェはとても驚いた様子で目を丸くする。
「本当にやるの? ドレス汚れちゃうからいいのに」
「汚れたら自分で洗うわ。なにもしないで待っているだけなんて嫌だもん」
ただお世話になりっぱなしではいたくない。菜園はこの邸宅の裏側にあるため人目につきにくく、敷地内だから誰も入ってはこられないし、問題ないだろう。
「やめときな」、「いーや、やらせて」というやり取りを何度か繰り返したものの、我を貫き通すと、アンジェは降参したように笑う。
冗談っぽく、「じゃあこき使っちゃうよー」と言いながら、菜園に案内してくれた。
菜園は一ヘクタールほどあり、数種類の野菜が等間隔で育てられている。
アンジェに教えてもらい、葉が倒れている玉ねぎを引き抜く作業を手伝うことにした。案外簡単に抜けるもので、形のいい玉ねぎが採れると嬉しくなる。
初めての作業を楽しみつつやっていると、しばらくして低い塀の向こうの道を歩く男性がこちらを見ていることに気づいた。