華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
静かなホールを抜け、階段の手前まで来ると、私を抱きかかえて上ってくれる。その対応にすら異常にドキドキしてしまって、冗談じゃなく不整脈を起こしそうだ。

彼にぎゅっとしがみつく私は昨日と同じゲストルームに運ばれ、そっとベッドに下ろされた。

寝かされると、天蓋の下でセイディーレが心配そうに私を覗き込む。


「気持ち悪かったりしないか?」

「それは大丈夫。でも、なんか自分の身体じゃないみたいで……もう、やだ」


どうにもできない歯痒さと、自分がとてもふしだらな女になったような気がして、ふいに涙が込み上げる。まるで熱に浮かされたように火照る顔を右手の甲で隠した。

すると、大きくため息を吐き出すのが聞こえてくる。

また迷惑をかけてしまった。マイナスのことしかできない自分が情けなくて、悔やんでも悔やみきれない。


「怒ってる、よね……。本当にごめんなさい」


顔を隠したまま謝ると、髪にそっと触れられる感覚がした。

少し手を退けてみれば、ベッドのすぐ脇で椅子に座り、眉を下げた彼が切なげな瞳で私を見つめている。


「怒ってるのはお前に対してじゃない。お前を危険な目に遭わせた自分に対してだ。山賊を追いに出るより、そばについているべきだった」

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