華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
相手を愛する気持ちが根本になければ、媚薬なんて意味がないのだ。実際に、今の私がそうなのだから。

抱きしめたいのも、抱きしめてほしいのも、ひとりしかいない。あなたじゃなきゃダメなんだよ。


「セイディーレだからよ。私がこんな気持ちになるのは」


潤んだ瞳でまっすぐ見つめ、必死に訴えた。彼は珍しく動揺を露わにして、私から顔を逸らす。


「それ以上言うな」


いつもの冷静さを少し欠いたような声で制された。

そうよね、伝えたところでどうにもならない。私が結ばれるべき相手はすでに決まっていて、この恋が実ることなどないんだもの。

現実を実感すると、悲しさで再び涙が込み上げる。それでも、言わずにはいられない。

初めての本気の恋を、自分の中だけに留めておくことができるほど大人じゃないし、きっと伝えるチャンスは今しかない。

彼と一緒にいられるこの時間が、いつ終わるかわからないのだから。

制止を聞かず、私は口を開く。


「出会ったときから、あなたは私にとって特別だった」

「……やめろ」

「好きなの。ダメだってわかってても、どうしても──」

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