華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
「何をしている?」


頭の芯に響いてくるような、毅然とした低い声が聞こえ、顎にひやりとした冷たい感覚がした。

人が近くにまで来ていることに気づかなかった私は、驚きで硬直する。

チラリと目線だけを下げれば、銀色に光る鋭利なものが顎の下に当てられていて目を見開いた。

これ……剣!?

かろうじて首に刃は当たっていないものの、少しでも動いたら切られてしまいそうで、背筋に悪寒が走る。

恐る恐る目線を上げると、黒い馬に乗った男性が私に切っ先を向けていた。

ダブルブレストの金色のボタンが輝く、漆黒の軍服に身を包んでいる彼。おそらくクラマインのものであろう紋章が入った制帽も、そこから覗く髪も黒く、まるでカラスのよう。

しかし、切れ長の瞳はエメラルドグリーンのような色で、とても綺麗。纏う雰囲気は、洞穴のように暗く冷たいのだけど。この国の騎士なのだろうか。

ものすごい存在感を放つ彼から目を離せないまま、私はわずかに震える声で尋ねる。


「は……入ってはいけないのですか?」


すると、ようやく剣が離され、私はひとまずほっと胸を撫で下ろした。

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