華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
愛しき密事に溺れるひととき
セアリエはほんの十数分で、この別荘を出ていった。
帰りがけにセイディーレに呼び止められ、ふたりが玄関先でなにかを話していたことが気になるけれど、ホールに再びふたりきりになると微妙な緊張感に包まれ、いたたまれなくなる。
セイディーレが私を襲おうとしていた悪魔だなんて話、信じてはいない。でも、あの日セイディーレに似た人物を見た人がいるというのは、一体どうしてなのだろう。
あのセアリエが嘘をついているようにも思えないし……と、ホールに立ったままぐるぐると考えを巡らせていたときだった。
「……怖くないのか」
ふいに声が投げかけられ、ぱっと振り向く。セイディーレは玄関のドアのほうからこちらへ、ゆっくり近づいてくる。
「あんな話聞いたら、多少なりとも危険を感じるものだろう」
そう言って目の前で足を止めた彼を見上げ、私はふっと笑みをこぼした。
「怖くなんてないわよ。今さらでしょう」
出会ったときから、彼は危険そうで冷たい雰囲気を漂わせていたけれど、怖いとは思わなかったもの。もちろん、今も。
セイディーレは、理解し難いとでも言いたげに少し眉根を寄せる。