華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
「偽の恋人なんて、演じるものじゃないな。そんなことしたら、お前が欲しくなるだけだったのに」

「セイディーレ……」


さっきから夢を見ているみたいだ。彼がこんなことを言ってくれるなんて、ありえないと思っていた。

感極まってなにも言えずにいると、抱きしめるように背中に手が回される。しかし、彼の手はなにやら背中で動き始め、シュルッという音がした。

……ドレスの編み上げ紐が外されている?

そう理解してさらに心拍数が上がる私の耳元で、セイディーレは手を動かしながら囁く。


「リルーナが狙われているとわかったときから、使命感に駆られた。お前を守りたい、俺の一番そばに置いておきたい、ってなぜだか強く思ったんだ」

「だから態度が急転したのね」


されるがままで呟く私の耳を、ふっと苦笑する息がくすぐった。彼は真面目な声で、正直な思いを吐露する。


「それまで突き放していたのは、俺のほうが恐れていたからだ。お前に溺れてしまいそうで、怖かった」


初めて彼の心の内側を覗けたとき、ドレスの紐は完全に外されていた。胸元に当てた手を離せば、あっさりと落ちるだろう。

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