華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
“エサをまいてある”というのはひょっとして、セイディーレに恋人がいるという噂を流しておいた、ということ?

その恋人が私だと、わざと山賊に気づかせ、ここに来るように仕向けたんじゃないだろうか。


「姫様も危険な目に遭うかもしれないから、すぐに連れて帰ると抗議しましたが、『山賊がどこかに潜んでいる昼間より、私が彼らの気を引いている夜のほうがいい』と言って聞かなくて……。なんとも無骨な真似をする」


怒ったような、呆れたような口調で言うセアリエの腰にしがみつきながら、私は離れていく別荘のほうを振り返る。

すると、ここに来た日に夕日を見た橋の上で、山賊らしき数人と戦う騎士たちの中に、軍服姿の彼がいるのも見えた。


「セイディーレ……」


華麗に剣を振るう彼の姿に、胸の奥からじわじわと熱いものが込み上げる。

無骨なんかじゃない。彼は危険をすべて抱えて、自分が盾になってくれたのだから。

わずかな隙も見逃さない先鋭な瞳、守るもののために盾となる頼もしい背中。彼のそれを見ていると、なぜか不思議な感覚に陥る。

あれ……あの光景、以前にも見た気がする。

いつどこで見たんだろう。魔物に襲われそうになったとき? いや、たぶんそれよりもずっと前に……。

< 201 / 259 >

この作品をシェア

pagetop