華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
そして、相変わらず冷たい声色で言う。


「探し物をしているとか言っていたな。それはなんだ」

「アルツ草です」

「……そう簡単には見つからないぞ。見つかったとしても、この森から出てはこられないかもしれない」


どうやらアルツ草のことを知っているらしい彼は、横目でチラリと森を見やる。それにつられ、私も視線を移す。

うっそうとしたそこは別世界への入り口のようで、再び怯んでしまうけれど、行く以外に選択肢はないのだ。気を強く持たなくちゃ。


「絶対に、見つけて戻ってきます」


自分にも言い聞かせるように宣言すると、私に目線を戻した彼が一瞬口角を上げる。笑っているとは言えないくらい、わずかに。


「見上げた姫だな」


抑揚のない声で吐き捨てると、彼はサーコートを翻し、風に舞うように馬に跨った。

私のことを見逃してくれるのだと思い、少し緊張から放たれたものの、こんな言葉が投げかけられる。


「この森では、夜になると魔物が活動し始める。その前に、生きて帰ってこられるといいな」

「えっ……魔物!?」


小説の中にしか存在しないと思っていたものの名前を口にされ、私はすっとんきょうな声を上げた。

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