華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情

森の中は、暗く静かで、少し湿気っぽい。

メーラは敏感なため、もし動物や、それこそ得体の知れない魔物が現れたとすればなんらかの反応を示すはずだけれど、特に変わった様子はなく、順調に森の奥へ進んでいった。

書物で見たアルツ草は、細長い葉と朱色の小さな花が咲く、背丈の低い植物だ。見逃してしまわないように、慎重に周りを見ながら歩くけれど、それらしき草は一向に見つからない。


「やっぱり難しいわよね……」


ため息混じりに弱音をこぼすと、メーラも同調するように弱い鳴き声を漏らした。

刻々と時間は過ぎるし、足も疲れてくる。

焦りも募りつつ、森の中をさ迷い続けていたとき、地面に落ちている朱いものが目に入り、一瞬疲れが吹き飛んだ。

近づいて拾い上げたものは、一枚の花びら。おそらく、アルツ草のものだ。


「もしかしたら、近くにあるかも……!」


希望が見え、なくなりかけていた力が湧いてくる。日はだいぶ傾いてきたようだけれど、ここまで来たら探し出したい。

まだかろうじて灯りがなくても辺りは見える。帰りはメーラに乗ればすぐに出られるから、もう少しだけ探してみよう。

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