華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
2─憂鬱─
今宵は誰と、どの宿で
森の外へ出ると、空はすっかり濃紺に染まっていた。
城の裏手であるこの辺りは、あまり街灯がないけれど、満月に近い月の明かりのおかげで、黒い軍服姿もよく見える。
彼は一旦馬を止め、私に問いかけてきた。
「これからどうするんだ? この時間から国へ帰るわけではないだろ」
「宿を探します。明日は薬師を探さなければいけないし」
チラリとアルツ草が入った籠を見て答えると、閣下は表情を変えずに、「それは無理だ」ときっぱり言い切る。
「クラマインの宿は、午後六時以降は女ひとりではどこも泊められないことになっている」
「えぇっ、そうなんですか!?」
初めて知った事実に、私は目を丸くした。
この暗さからして、六時はとっくに過ぎているはず。まさかそんな取り決めがあったなんて!
「昔、宿泊施設で若い女が襲われる事件が多発して、それから厳しくなってな」
「そんなぁ……」
淡々と告げられ、私は肩を落として落胆した。
そこまでは調べていなかったわ……どうしよう。
宿に泊まることができないとしたら、野宿することになってしまう。さすがにそれはマズイでしょう!