華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
鳥籠から飛び出して
* * *
私が十七歳の誕生日を迎えてから一週間後のある日、お父様のアドルクが突然倒れた。
彼が患っていたのは、内臓が徐々に蝕まれていくという難病。
自覚症状は軽いものだったため、たいしたことはないと放置していた結果、本人も周りも気づかないまま症状が悪化してしまったのだ。
「まさかお父様が、あの病にかかっていたなんて……」
お父様が眠るベッドの脇で、ミネル姉様が長いまつ毛を伏せ、力無い声をこぼした。
灰色の髭を生やした彼の顔色は悪く、弱々しく見えて、いつもの威厳は感じられない。
寡黙で厳しく、あまりかまってはくれなくて、優しくしてくれない父を不満に思う時期もあった。姉と比べられて、憎らしく思うことも。
けれど、たったひとりの父親なのだ。大切だし、こんな姿を見るのは、姉様と同じくとても辛い。
肩を落とす姉様に、彼女の夫のジュスファー王子が寄り添っている。私の義理の兄である彼は、とても優しく、正義感も頼りがいもあり、王子の名に相応しい人だ。
「治療は難しいのよね?」
肩を抱く義兄様を姉様が見上げて問うと、彼は難しい顔をしたまま答える。