華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
3─逃奔─
叶わぬ想いを抱いて
お父様がマジーさんの薬を飲み始めてから、約二週間。
効果は抜群で、体調はみるみる回復し、あっという間に城の中を歩き回れるくらいまでになった。
私は以前と変わらず、城の中で政治の勉強をしたり、本を読んだりと、平凡な日々を送っている。
レースのような薄い雲が青空に浮かぶ今日は、お父様の部屋に飾ってあげようと思い、庭に咲いたカモミールやラベンダーを摘んでいた。
小さな花束にしたそれを持って、お父様が休んでいる寝室のドアをノックする。返事が聞こえてから重厚なそれを開けると、ベッドに座って様々な資料に目を通している彼がいた。
「お父様、体調はどう?」
「あぁ、もうだいぶいい。そろそろ政務も再開しないとな」
花瓶がある窓際に向かう私を一度見て、淡々と答えた彼だけれど、すぐにまた資料に目を落とす。
すっかり国王の顔に戻ってしまっている。まだ本調子ではないのだから、こんなときくらい休んでいればいいのに。
少しの呆れと、体調が良くなってほっとした気持ちとが入り混じる。
「無理は禁物よ。良くなったように思えても、内臓が完璧に回復するのには時間がかかるって聞いたわ」
「そうだな」
マジーさんが言っていた忠告を口にすると、お父様は髭の下の口角をわずかに上げて苦笑した。