華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
「特別な薬が必要なんだ。なかなか生えていないアルツという薬草を見つけるのも一苦労だが、調合を行える薬師も稀だと聞いている。ハーメイデンではまず無理だ」

「そんな……」


姉様は絶望感を露わにして声を震わせ、両手で顔を覆った。

ふたりの向かい側のベッドサイドに立ち、お父様を見下ろして話を聞きながら、私は昔読んだ書物のことを思い出していた。

しばし考え、あることを決心すると、姉様の近くに向かい、彼女の手首をぐっと掴む。


「姉様、ちょっと」


困惑と驚きが混ざった顔をする彼女の手を引いて、部屋を出た。

紅い絨毯が敷かれた廊下は、さっきまで使用人たちが慌ただしく歩き回っていたものの、お父様がベッドに落ち着いた今は誰もいない。


「リルーナ、どうしたの?」

「私なら、薬草も薬師も見つけられるかもしれない」


力強い口調で言うと、怪訝そうにしていた姉様が目を丸くする。


「前、書庫で読んだ古い書物に書いてあったの。アルツ草がどんな場所で取れるかも、その辺りを放浪している薬師がいることも。そこに載ってた地図を見て、“クラマインの森で取れるんだ”って思った記憶があって」

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