華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
「将来お前が暮らすことになる国だ、見ておいたほうがいいだろう」


嬉々としていたものの、そのひとことで興奮が落ち着いていく。

そうだ。私は近い将来、クラマインの王太子と結婚して、あの国の王妃になるのだ。

具体的な日にちはまだ決まっていないけれど、結婚できる十八歳になったら、おそらくすぐに準備が進められるはず。

鳥籠から出ることができても、私には自由などない。

決められている未来を実感すると、心が重く沈み込んでいく気がした。

そんな私の心境を知ってか知らずか、お父様は目を伏せて静かに言う。


「あと一年で、お前も結婚できる年になるのか……。感慨深いな」

「そうね……」


私はそれしか口にすることができず、暗くなる表情を見られないよう、そそくさと部屋をあとにした。


 *


夕方になり、私は城の敷地内にある剣の練習場に足を運んだ。

騎士たちが日々剣術を磨いているその広場は、家が一軒悠々と建てられるくらいの広さで、防具を身に着けて動き回る彼らが砂埃を立てている。

今の時間はそれほど騎士はおらず、剣を交えているのは二組だけ。

私は広場の一角に建てられた武器庫を囲む低い塀に軽く腰かけ、その様子をぼんやりと眺めていた。

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