華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
当の本人は涼しげな表情を崩さず、「ご紹介に与りました、セイディーレ・ランヌと申します」と皆に挨拶すると、視線を私に移す。


「私がご案内いたします。なんなりとお申しつけを……リルーナ姫」


初めて畏まった口調で言われ、ドキリと胸が鳴った。女性を敬う紳士のような彼は新鮮で、それもまたカッコいい。

けど、腰が低い態度はよそよそしくて、なんだか笑えてきてしまう。ランヌさんったら、この前はあんなに横柄だったくせに。

さりげなく口元に手を当て、込み上げる笑いを噛み殺していると、冷たい瞳でじとっと見据える彼に気づいてはっとする。

笑っていたことがバレたかしら、とギクリとしつつ、私はしらばっくれてゆっくり目を逸らした。

陛下はセイディーレの肩に手を置き、「それじゃあ、頼んだぞ」とひと声かけて、お父様と一緒に会議室へと向かう。

お義兄様と一緒に会談に出席することになっている姉様も、「失礼のないようにね」と私に笑みを向け、階段を上っていった。


「姫様」


ふいに声をかけられて振り向けば、なぜか神妙な面持ちのセアリエがいる。

どうしたんだろうと小首をかしげる私に、彼はなにかを警戒するような様子で問いかける。

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