華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
「あのー、閣下?」

「右手のドアから先は騎士が暮らす館となっております。そして、こちらは来客があったときの応接室のひとつで……」

「ちょっと、セイディーレ!」


尚も説明を続け、近くのドアを開いてふたりで中に入った直後、私は堪えきれずに叫んでしまった。

大きな絵画が壁一面に飾られた、綺麗なその部屋のソファのあたりで足を止めた彼は、ゆっくりこちらを振り返る。

やっぱり凄みのあるオーラに怯んでしまうけれど、負けじときりりとした顔を作る。


「“久しぶり”とか、“元気だった?”とか、なにか言うことが、ありませんか?」


なぜか敬語でぎこちない喋り方になってしまう私を、セイディーレは冷ややかな瞳で見つめてひとこと。


「久しぶり、元気だった?」


棒読み!

私が言ったことをそのまま反芻する彼に呆れ、ため息を漏らして脱力した。まぁ、もっといい言葉を期待してたわけではないのだけど……。

案の定な反応にうなだれていた、そのとき。


「アドルク陛下、回復したようでよかったな」


やっと“彼自身の声”が聞こえてきて、私は顔を上げた。

相変わらず無愛想だけど、以前のように話してくれるだけで嬉しい。ふっと口元を緩め、「えぇ、おかげさまで」と返した。

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