華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
しかし、それからどう会話を繋げようかと悩んでしまい、沈黙が訪れる。必死に言葉を探していると、セイディーレが先に口を開いた。


「こちらと同じような部屋が隣にもうひとつあり、二階には来客用の寝室なども……」

「せ、説明はもう大丈夫! ありがとう」


あぁ、また“閣下”に戻られてしまった! せっかく他人行儀じゃなくなったと思ったのに。

慌てて制止すると、セイディーレは訝しげに眉をひそめる。


「城の中を見学したかったんじゃないのか?」

「それは、セイディーレを探したかったからで」


正直に白状すると、彼は気だるげにソファの背に軽く腰かけ、腕を組む。


「お前は相当頭が弱いんだな。あんなふうにされたっていうのに、まだ俺のことに構うなんて」


遠慮なく私をけなしてくる彼は、あの時と同じ。でも、今は不思議と苛立ちもショックも湧いてこない。

“あんなふうにされた”というのは、マジーさんの小屋での一件のことだろう。あのときはいくらかダメージを受けたけれど、今となってはなんてことない。

私は腰に手を当て、しれっとした顔で思い切って言う。


「あれで牽制したつもり? 全然怖くなんてなかったわよ」

< 88 / 259 >

この作品をシェア

pagetop