華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
嘘だ!……と反論しようとしたけれど。

そういえばダンスを教えてくれていた先生が、『もうちょっと動きが柔らかくなるといいのですが……』と苦笑いしていたっけ。

あれって、私がロボットみたいにぎくしゃくしていたから?


「そ、そんな……」


自覚がなかったことも恥ずかしくて、頭を抱えてうなだれると、コツコツと足音が響いてくる。見下ろした床に黒いブーツのつま先が見え、そこでぴたりと止まった。

なぜか目の前に来たセイディーレを見上げた直後、無表情に戻っている彼が突然私の左手を取り、ダンスをするときのように組む。

戸惑っているうちに右手も持ち上げられ、脇の下から肩甲骨の辺りにぐっと彼の手が添えられた。

え、ちょっと、近い近いっ!!

急激に密着して、心拍数が一気に上昇する。

突然なにかと思ったけど、もしかしてこれは、ワルツの実践?

彼の顔も見られずにどぎまぎしていると、「背筋を伸ばして、少し反れ」という指導が入る。

とりあえず言われた通りに肩甲骨の辺りから身体を反らせると、嫌でもセイディーレの顔が目に入ってしまい、身体が熱くなるのがわかった。

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