華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
昔、練習しているときの相手は女性の先生だったから、こんなに緊張したことはなかった。舞踏会で平然と踊る皆を尊敬するわ。


「右足を引いて、あとは俺の動きに合わせろ」


そう言われて素直に頷くものの、カチコチの身体はまさにロボット状態で上手く踊れそうな気がしない。

それでも、やらないと怒られそうなのでなんとか足を一歩引くと、彼はゆっくりリードして動き始めた。


……うわ、上手。すぐにそう思った。

ふわっと柔らかに流れるようなステップで、それに身を任せれば自然とついていける。

徐々に慣れてきて踊るのが楽しくなり、笑顔になっているのは私のほうだった。

ふたりだけで、音楽もなにもないけれど、本当の舞踏会に出ているような気分。お相手のセイディーレも冷酷な指揮官ではなく、王子様みたいだ。

すると、ちらりと私に目線を向けた彼が、少し微笑んでくれたように見えたから、さらに私の胸は高鳴る。

どうしてこんなにドキドキするんだろう。初めて男の人と踊ったから? 笑ってくれたから?

そのどちらでもあって、どちらでもないような気がする。

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