【短】屋根裏の王子様
たしかに、契約のとき、家賃がこの部屋だけ妙に安いなって思った。
敷金は、預けておくお金のことだ。退居時に戻ってくることになっている。
礼金は、文字通りお礼のお金――つまりは、このアパートを借りるために支払うもので、返ってこない。
それをなんと、ゼロにしてもらった。
そこまでサービスしてもらうと、〝いわくつき〟なのかとビクビクした。
怖かったので理由は聞かなかったけれど、事件でもあったのかと気にはなっていた。
それが、まさか、そういう事情だとは思いもしないわけで。
驚愕の事実に、開いた口がふさがらない。
「出ていきますか?」
「えっ」
「それとも彼を、追い出しましょうか。彼には、くれぐれも揉めないようにって釘をさしておいたんですけどねぇ」
なんてことだ。わたしのせいで、あのお兄さんが追い出されるのは困る。
「管理人さん!!」
「はい?」
「あの人、どこから出入りしてるんですか?」
「……窓ですよ。木を伝って」
危なすぎません!?
「お風呂とかトイレは?」
「私の部屋に借りに来ますね」
「そんなの、不便ですよね……」