アフタースクールラヴストーリー
「……ったくあいつは」
苦い顔をする修平。
本来なら追いかけたくなるところだが、彼はそうはしない。
ここで自分が追いかけて行っても、おそらく何もできないし、他の人に迷惑をかけるだけである。
それが分かっていた修平は、自らの気持ちを抑え、できることを探す。
そして彼は、教室の真ん中で目を伏せている恋人の姿を見つけた。
「ちひろ……?」
この様子であれば、今回の件にちひろも関わっていることは修平にも想像がつく。
心配になった彼はちひろの方へと歩み寄る。
「どうしたんだよ?」
「ごめん……」
「え? ごめん?」
「美奈が出て行ったのは、私のせいなの……。私があの子を裏切ったから……」
ちひろ放心状態に近かったが、修平が来たことで少しだけ正気が戻る。
「裏切った?」
「うん。美奈が久田先生を好きだってことは、前々から聞いてたの。あの子の気持ちを尊重してあげたいとも思ってた。だけど、実際に付き合うことになったらって考えると、すごく怖くて。それで美奈が久田先生に告白したっていう話を聞いた時、頭が真っ白になっちゃって……。その後色々と美奈が周りから言われてたんだけど、私は助けてあげられなかった。美奈のこと信じられるか聞かれても答えられなくて……。そしたら美奈は、走って外へ……」
ちひろの頬を涙が伝う。
彼女が真っ赤になった鼻を啜る音が、教室に響く。
「そっか……。でもさ、それはちひろが悪いわけじゃないだろ」
修平はさりげなくちひろの頭の後ろに手を回し、優しい声で言った。
「え……?」
ちひろは修平の顔を見上げる。
「どんなに仲の良い友達だからって、いつもいつもその子を信じられるわけじゃない。それに、いきなりこんなことになったら誰だってパニックになるさ。俺だって、ちひろと同じ状態になったら同じこと言ったかもしれない」
「だ、だけど、私のせいで美奈はどこかに行っちゃった。どうしよう……」
心配で堪らないといった様子で言うちひろ。
「大丈夫。美奈ちゃんはちゃんと戻ってくる。どっちかといえば、優の方が戻ってこられるか心配だよ」
修平は冗談っぽく笑って言う。
その笑みがちひろの心をどれだけ軽くしたか、言葉では言い表すことは出来ない。
「今ちひろにできることは、あの子の帰りを待っててあげること。二人なら、帰って来てからいくらでも仲直りできるさ」
「修平……」
ちひろは涙を拭う。
「ありがとう」
修平にお礼を言うちひろ。
いつしか声の震えは収まっていた。