アフタースクールラヴストーリー

「久田先生、こちらに座ってください」

林先生が壁にかけられていたパイプ椅子を用意してくれた。僕はそれに腰かけ、話し合いを見守る。

「毎回というわけにはいきませんが、時間がある時はこうして顔を出して、四人の様子を見に来ます。ただ私達がいない方が議論を自由にできるので、極力話し合いをしている間は顔を出さないようにしています。もちろん、時と場合によって口出しすることもありますけど」
「なるほど」

話し合いの内容は、六月に行われる球技大会に関して。
学生の時は何も考えず楽しむだけだったけれど、今考えるとこうした行事は生徒会が準備していたんだよな。
昔の自分にはなかった生徒会への尊敬が、今になって湧いてくる。


話し合いも終了し、四人は各々自分の作業に取り掛かる。
僕と林先生は職員室に戻り、下校時間が近づいてきたら再び顔を出すことにした。

「どうでしたか。生徒達の雰囲気は」
「皆自分の意見をしっかり持っていて、素直にすごいなと思います。しかもそれを自分の言葉にして主張できていましたし。僕が高校生の頃なんか、何も考えていませんでしたよ」

苦笑いを浮かべながら僕は感想を述べる。

「確かに今期のメンバーは自分の考えを伝えるのが上手で、団結力も強くまとまっていますね。美奈が会長なのも大きいと思います」
「彼女の明るさなら自然と雰囲気も良くなりますもんね」
「それもありますが、他人の面倒見が良くて、生徒会を引っ張っていこうという意思が強いことも良い方向に作用していると思います。それに何より、彼女が努力している姿を皆見ていますから」
「努力している姿……」
「ええ。本人は当たり前だと思ってやっているんでしょうけど、この学校を良くするためにどうするべきか熱心に考えたり、会長の名に恥じないためにと必死に勉強したりする彼女を見て、自然に皆が付いていくんだと思います」
「なるほど」
「昨日みたいに横着する場合もありますけど、それもあの子の魅力ですかね」

小さな笑みを垣間見せながら話す林先生の言葉からは、副崎への信頼が見て取れる。
初めて彼女に会った時も、入学式の直前まで自分で考えた挨拶を頭から離れないよう何度も確認していた。
それだけ彼女は一所懸命に、生徒会長を務めているということだ。
僕が見惚れてしまったあの姿は、副﨑の努力が生み出したものに他ならない。
教師として生徒に感化されるのは情けないかもしれないが、自分も負けていられないという意識を芽生えさせられる。
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