アフタースクールラヴストーリー
なんだかさっきからずっと、頭の中に濃い霧がかかったような感じがする。
トーナメント表の修正に時間がかかってしまい、昨日寝る時間が遅くなったのが原因だろうか。
といっても別に動けないほどでもないし、多少無理すれば大丈夫だ。
今日は生徒会主催の学校行事だから私が休むわけにはいかない。
それに、この球技大会は林先生がいなくなって最初の行事。
今までは林先生に頼ることも多く、支えてもらってきた。
しかしその林先生はもういない。
決して久田先生が頼りないというわけではないが、林先生がいなくても私たちはやっていけるということを今日で証明しておきたい。
その思いから来る強いプレッシャーが私を動かしていた。
「……い」
「……んぱい」
「美奈先輩‼」
「あ、ごめん。何?」
いけない。
私としたことが、ボーっとしてしまっていた。
「大丈夫ですか? 具合が悪いなら休んでいた方が……」
心配そうな表情で、悠実が私の顔色を覗う。
「ありがと悠実。大丈夫だから。で、どうしたの?」
「そろそろ終わりに近づいてきましたし、閉会式の準備も始めますか?」
「ああ、そうね。賞状の用意もしないといけないし。必要なものが何個か生徒会室にあるから、今から取りに行ってくるね」
「あ、いいですよ。態々先輩が動かなくても、私が行きますから」
「そんなに気を遣わなくていいよ。最後に触ったのは私だから、どこに置いたとかも私がよく分かってるしね」
悠実の気遣いはありがたかったが、私の方が把握している以上、私が生徒会室に向かった方が早い。
一瞬視界が霞み、目の前にいた悠実の姿がぼやける。
私は二度大きく瞬きをしてピントを合わせる。
「ふう……。すぐ戻ると思うけど、何かあったらよろしくね」
「分かりました」
「久田先生、ちょっと生徒会室に物を取りに行きます」
「分かった」
椅子に座っていた久田先生は、ポケットから生徒会室の鍵を取り出す。
鍵を差し出された私は受け取ろうと右手を伸ばす。
その瞬間の出来事だった。
伸ばした右手と共に、どうしてか私の身体も前へと押し出される。
左足で踏ん張ろうとするも全く力が入らない。
私がしていたのは小さな無理ではなく、大きな無茶だった――。
「副﨑先輩!」
私はその場に倒れこみ意識を失う。
ぽつぽつ聞こえていた蝉の鳴き声は、その時だけ学校中に響き渡った。