アフタースクールラヴストーリー

「副﨑!」

保健室のドアを開けると、意識を取り戻した副崎の姿があった。
倒れた副崎を保健室に運んだ後、球技大会の残りの行程を消化するため僕は一度本部に戻った。
今は片付けまで一段落したので、副崎の様子を確認しに来たところだ。

「あ、先生」

副崎は疲労感のある顔で返事をする。
僕は彼女が横になっているベッドまで歩み寄り、近くにあった椅子に腰掛ける。

「大丈夫か、具合の方は?」
「ええ。まだちょっと体がだるいですけど、熱も高くなかったですし、大丈夫です」
「そうか、それなら良かったよ」
「あの、球技大会の方は……」
「ああ、一通り片付けまでが終わったよ。とりあえず最後まで無事に開催できた。閉会式での生徒代表の挨拶はなしになっちゃったけどね」
「すみません……」

副崎は力なく謝る。
その言葉からは、悔しさと無念の思いが滲み出ていた。

「いやいや、そんなに気にすることじゃないよ。実際にこうやってほぼ予定通りに進んだんだし、それは副崎が皆をまとめてい……」
「そういうことじゃないんです!」

怒気を帯びた副崎の声が、僕の言葉を遮り、保健室を揺らす。

「副﨑?」
「あ……、ごめんなさい」

副崎は我に返った様子で、静かに説明し始めた。

「今日だけは、絶対に倒れちゃいけなかった。あの場から私がいなくなっちゃいけなかったんです……」

副崎の目にうっすら光るものが浮かぶ。

「この球技大会で、林先生がいなくても、私達だけでやっていけるって証明したかった。そうして林先生にも他の生徒会のメンバーに対しても、自信を持って行動できるようにしたかった。誰かに頼らなくても生徒会長としてやっていけるんだって、皆をまとめられるんだって。それなのに……」
「副崎……」

おそらく、林先生も他の生徒会メンバーも、誰一人として副崎に対して不満など持っていない。
寧ろ林先生は副崎を信頼していたからこそ、安心して産休に入ったのだろう。
その信頼は今日倒れてしまったからといって大きく揺らぐことはないし、これまで副崎を見てきた人なら誰も責めないはずだ。
けれど副崎にしてみれば、周りの評価にどれだけ信憑性があっても自分の中で確実なものにはならない。
結果として形になって初めて自分に自信が持てるのだ。
きっと今回に限ったことではない。
何かある度に副崎は自分の力への懐疑心と戦い、結果を出してきた。
しかし今回、今まで生徒会を支えてきた林先生がいなくなって初めてということで、副崎にはより大きなプレッシャーがかかっていた。
普段は感じなかった焦りや不安もあったはずだ。
そんな中でもこれからやっていけることを、彼女は証明しなければならなかった。
倒れるまで無茶をした一番の理由はそこだろう。

精神的にも身体的にもかなりの負担が掛かっていたはずなのに、今日の副崎は常に笑顔で周りと接していた。
僕はそんな彼女の表情だけを見て、心の奥を全く見ようとしていなかったのだ。

< 41 / 137 >

この作品をシェア

pagetop