アフタースクールラヴストーリー
「考え事って、何か悩みでもあるの?」
「え……?」
久田先生に怒っている様子はなく、それどころか優しい口調で私を心配してくれた。
予想外の反応に、私は呆気にとられて固まる。
「お、おい、どうしたんだい?」
「あ、あの……、怒らないん……ですか?」
「怒る?」
素っ頓狂な顔をする久田先生。
「だって、私から連れ出して、先生には自分の時間を割いてここに来てもらっているのに、話を聞かずに他事を考えているなんて……」
「ああ、そういうことか」
私が言いたいことを理解した先生は持っていたペンを置き、口元を緩ませて話す。
「そりゃ、呼び出されたのに話を聞いてもらえなかったら腹が立つけど、それは普段からしっかりやっていない人に対してだけだよ」
「普段からしっかりやっていない人……?」
「そう。副崎はいつも真面目で、一所懸命に努力している。それにさっきすぐ自分の非を認めて謝ったしね。十分に反省しているような子に怒るなんて意味ないし、おかしいだろ。本音を言えば、副崎ぐらいにもなると稀にこういうことがあった方が、僕は安心するよ」
「私が真面目で一所懸命なんですか?」
「うん。まあ頑張りすぎて、この前みたいに倒れられても困るけどね」
「それは……」
私は目を伏せる。
ここであの日の出来事を思い出すと、また胸が熱くなってしまう。
「ふぅ……」
深呼吸をして、何とか息を整えて落ち着く。
「なあ副崎、何か悩んでいるんだったら、話してくれないか? 副崎が元気ないと心配になるし、それに……」
「それに?」
久田先生は一度躊躇い、小さめの声で言う。
「支えるって言ったから……」
「ああ……」
私の心が揺れる。久田先生の頬が微かに赤らんでいる気がした。
球技大会の日、倒れた私に久田先生は「支えになる」と言ってくれた。
そんなこと言われたのは生まれて初めてで、その時私は、自分が久田先生に恋をしていると分かった。
「約束した以上、副崎が悩んでいたら力になりたい。どんな相談でも乗るからさ」
「先生……」
正直言うと、普段の久田先生はどこか頼りない。
私と話すときは大抵私のペースに持っていける。
だけど私のことをよく見ていて、私の弱さにも気付いてくれた。
そして支えになると言ってくれた。
久田先生はその約束をしっかり果たそうとしてくれている。
それがどれほど、私の力になることか。