アフタースクールラヴストーリー

「もう、ますます好きになっちゃうじゃないですか……」

私は先生に届くか届かないかの微妙な大きさの声で呟く。
けれど、久田先生には絶対に聞こえていない。

「え? 何か言った?」

ほらね、それが久田先生だもん。

「何も言っていません。というか、乙女の悩みに男の人がずけずけと入ってくるものじゃないですよ」
「ええ? というかやっぱり、何か悩んでいることがあるんじゃないか」
「さあどうでしょう。先生には言えません」
「そんな……」

先生は少年のように残念がる。

「どうしても聞きたいなら……」
「聞きたいなら?」

先生が私に顔を近づける。
勢いが良かったので、私は反射的に顔を逸らしてしまう。

「どうした?」
「い、いえ」

私は一呼吸入れ、再び先生の顔を見る。

「そんなの、自分で考えてください」
「へ?」
「私の悩みをどうしたら聞けるかなんて、自分で考えてください」
「ええ……」

久田先生の身体が机に崩れ落ちる。

「というわけなので。分からないところをもう一度説明して下さい」
「あ、うん……。なんか話を逸らされた気がするんだけど」
「何言ってるんですか。分からないところを聞くのが本来の目的ですよ」
「あ、そうか。いや待て。元々は副崎が僕の話を聞いていないから、こうなったんだろ」
「あ、ばれちゃいました?」
「当然だろ。全くもう……」

悪戯っぽく言った私に、呆れた顔で首を垂れる久田先生。

「次はちゃんと聞いておくように」
「はい。しっかりと拝聴させていただきます」

私はあどけなさを全面に押し出して、久田先生に笑いかける。

先生と一緒にいると、どんどん先生を好きになっていく。
今の好きは、この前の好きと比べて何倍にも膨らんでいる。

先生、私の一番の悩みが知りたいなら――。

”もっともっと貴方のことを好きにさせて下さい”

今日は梅雨の中休みの暑さが、特段際立っている。

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