アフタースクールラヴストーリー

「ありがとうございました」
「いえいえ。じゃあ職員室に戻るよ。もしまた分からないところがあったら聞きに来てね」
「……はい」

どことなく残念そうに、副崎は返事をする。

「では私は教室に戻って勉強します」

と思ったらすぐに笑みを浮かべて僕に挨拶し、教室のほうに歩いて行ってしまった。
僕も職員室に戻るため、副崎と別の方向に歩き出す。

一階の渡り廊下を歩いていると、どこからか僕を呼び止める声が聞こえた。

「ちょっと待てよ」

声の方向に振り向くと、そこに立っていたのは、野球部のユニフォームを着た藤澤優だった。
顧問の御手洗先生に聞いた話だと、野球部は夏の大会が迫っているためこの時期は毎年学校に許可を取って、制限付きだが活動しているそうだ。
藤澤がユニフォーム姿であるのも、部活をしていたからだろう。

「おお、藤澤。部活は終わったのか?」

藤澤とこうして話すのは珍しい。
僕は若干上ずった声で尋ねる。

「何してたんだよ……」
「えっ、何してたって?」

僕は質問の意図が理解できない。

「だから、さっきまでそこで美奈と何をしてたんだよ?」

どうやら、先ほど僕が感じたのは藤澤の視線だったようだ。
彼は落ち着いたしゃべり方をしているが、発する言葉からは怒りが伝わってくる。
それは表情からも感じとれた。
口を真一文字に結び、鋭い視線をこちらから外さない。
野球の試合の時にこの目つきで睨まれたら、ほとんどの相手は怯んでしまうだろう。
といってもこれは試合ではないし、何よりも僕は教師だ。
生徒に対して怯んでいてはいけない。

「勉強していたんだよ。彼女が分からないところがあるって言うから、そこを教えていたんだ」
「それなら、他の場所でもできるだろ。何故あそこでやる必要があるんだよ」

藤澤は納得できない様子で追及する。
口調は変わらないが、より怒りが強まっているようだ。

「しょうがないだろ。職員室の前は満席だったんだよ。それで副崎が、生徒会室はどうだって提案してきたんだ」
「だからって二人きりで教室に入るのかよ」
「う……」

仕方ないとはいえ、僕も良くないことは分かっている。
だからそこを突かれると、後ろめたい気持ちになる。

「い、良いことではないけれど、勉強を見ていたのは本当だし、それに窓を全開にして、外から何をしているか分かるようにしておいただろ」

僕は必死に弁解する。
当然全て事実だ。
藤澤はそれを聞いて一旦黙り込み、その後ゆっくりと、再び口を開いた。

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