アフタースクールラヴストーリー
「どうしてあいつにそこまでするんだよ」
あいつ? 副崎のことかな。
唐突に質問が変わり、僕は戸惑いながらも藤澤に答えを返す。
「どうしてって、僕は教師として当たり前のことをしているだけだよ。特別なことをしているとは思ってない。副崎のことを言っているのかもしれないけど、僕は生徒会の顧問だし接する機会も多いから、どうしても彼女に何かをすることが増えているんだと思う」
そう、僕は変わったことなどしていない。
生徒の分からないところを教える。
教師としては至って普通の行動だ。
副崎に対しても、僕は生徒会の顧問だから、自分がすべきことをしているだけだ。
僕は藤澤にも自分にも言い聞かせるように話した。
僕の言い分を聞き、藤澤がぼそりと呟く。
「……それでもあいつは……、あんたを……」
「え?」
何と言っているのか、よく聞き取れない。
しかし藤澤は言い直すことをしなかった。
お互い数十秒の沈黙が続いた後、藤澤の方から話し出す。
「俺の方があいつのことを分かってやれる」
小刻みに、藤澤の右腕が震える。
「俺だったら……、俺があの日あいつの傍にいられたのなら……、美奈が倒れることなんてなかった!」
藤澤の口調が一気に激しくなる。
溜めていた何かを、思い切り吐き出すように。
「それは……」
僕は言葉を失う。
球技大会の日、僕がもっと注意していれば副崎が倒れることはなかった。
しかももし藤澤が言った通りなら、あの後彼女に「僕が支えになる」なんてよく言えたものだ。
藤澤の言葉は僕の胸に上からのしかかり、今にも押し潰そうとしている。
「俺はあんたには負けない」
僕の耳元でそう言い残し、藤澤は立ち去ろうとする。
「待て藤澤!」
僕の呼び掛けには反応せず、彼はグラウンドの方へ走って行った。
「負けないって、どういうことだよ……。」
その言葉の意味は疑問だったが、それよりあの一言が僕の心に残っている。
『俺が傍にいたら、美奈が倒れることなんてなかった!』
憤りと悔しさが伝わる一言だった。
あれは多分、ハッタリなんかではない。
藤澤は本当にそう思っているのだと、僕は感じた。