アフタースクールラヴストーリー
「何やってんだよマジで……」
手の平を見てみると、自転車のハンドルを強く握った時に潰れたマメが、血で暗褐色に滲んでいた。
さっきまではなかった痛みがじわじわと感じられるようになる。
優はその痛みに耐えながら、美奈とのやりとりを思い出す。
『生徒が教師に恋愛なんておかしいだろ』
あんな言葉をかけるつもりはなかった。
確かに教師と生徒が恋愛するという話は、周りから卑しい目で見られることが多い。
恋愛には詳しくない優だが、それは何となく分かっている。
けれどもそんなのはドラマや小説の中の話でしか聞いたことが無い。
もし現実であったとしても自分には縁のないものだと思っていたし、他人がする恋愛に興味はなかった。
だが今回だけは違う。
教師を好きになった生徒は自分の幼馴染、しかも長年片想いし続けてきた子である。
球技大会でその気配を感じとり、今日確信した。
その瞬間優の頭の中は、想い人が他人に取られるかもしれないという、焦燥と恐怖で一杯になった。それ故に、つい心無い言葉はかけてしまったのだった。
美奈が言った通り、彼女も翔一郎もお互いに普通に接していたのだと思う。
翔一郎は授業で見る限り真面目で誠実そうだし、美奈は生徒会長としてふさわしい行動を心掛けている。
物事に一所懸命で、手を抜いたりしない。
それは優が一番分かっている。
その美奈が好きになった訳だから、翔一郎は本当に真摯な姿を見せていたのだろう。
そんなことも分かっている。
それでも、頭では理解していても、好きな人への想いの強さが勝ってしまう。
自分をコントロールできなくなる。
それがどれほど自分勝手なことなのか、考えなくても分かる。
しかし初めて味わうこの感情を抑える術など、彼は持ち合わせていなかった。
すっかり暗くなった空には、星が一つだけ、悲しそうにも消えないよう必死に輝いていた。