アフタースクールラヴストーリー
「はい、そこまで。テストを回収します」
二期考査が今日で終わり、美奈のクラスは一時的に弛んだ空気が流れる。
「テスト終わったね、ちひろ」
「そうね。けど私達三年生にしてみたら、これからが始まりみたいなもんでしょ」
ちひろの言う通り、美奈達は高校三年生。
全高は進学校であり、卒業する三年生のほとんどが大学に進む。
そのため彼女達の夏休みは受験勉強において重要な時期だ。
「考査が終わったからって羽目を外す暇なんてないよ。夏休みは補習もあるし」
「まあね。そういえば私、補習について先生に聞きたいことがあるんだった。ごめんちひろ、ちょっと待っててもらってもいい?」
「分かった。先に昇降口行って待ってる」
「うん、ありがとう」
美奈は教室を出て、職員室へと向かう。
ちひろも自分の荷物の整理を終え、教室を出る。
途中でトイレに入ったところ、見知らぬ女子生徒二人の会話が耳に入ってきた。
「ねえねえ、あのニュース見た? 陸北で教師と生徒が付き合ってたやつ」
「ああ、あれね。見た見た。マジあり得ないって思ったわ」
「生徒と付き合う教師とかキモくない? なに手出してんだよって感じ」
「しかも別れ話切り出されて、それを拒否って付きまとったらしいよ」
「うっわ、更にキモい。でもさ、付き合う女も女だよね。何考えてんだろ。もしやお金目的とか」
「ははっ、あり得る。だけどこの学校の教師にもいるらしいよ、生徒と付き合って結婚したって人」
「え、なにそれ。誰なの?」
「分かんない。去年先輩から聞いただけだし。先輩も誰かは知らないらしい」
「えーっ、自分が関わってる先生の中にいたら鳥肌もんだわ」
「ほんとそう。後さ、もし自分の同級生とか後輩とかが先生と付き合ってたら、その子も無理」
「分かる。絶対近寄らない」
お互いの意見にそれぞれが同調しながら、二人の女子生徒はトイレを出ていく。
ちひろは二人の話を黙って聞いていた。
そして、今自分の周りで起こっていることについて考える。
美奈が久田先生を好きだという気持ちを、否定する気はない。
寧ろ尊重したい。
しかし美奈が久田先生と付き合いたいと言ったら、実際に付き合うことになったら、話は別だ。
先生と生徒が付き合えばさっきの二人が話していたような事件に繋がり、美奈が傷つくことだってあり得る。
それ以前に自分が教わっている先生が親友と付き合っているなんて、はっきり言って気持ち悪い。
久田先生のことは間違いなく避けるだろうし、美奈とも今まで通りに接することができなくなるかもしれない。
ちひろにも、あの二人の女子生徒が持っていた嫌悪感に共感する気持ちはあった。
「美奈はどうしたいんだろう……」
そんな疑問と懸念を抱きながら、ちひろはトイレを出る。
彼女は昇降口へ向かい、そこで先生を好きになってしまった親友を待った。