アフタースクールラヴストーリー
「やっぱり好きな人を意識しちゃうと、色々と考えるよね。私もそうだった。背伸びして普段は着ないような服を選んだりしたわ。でもね、そんなに考え込まない方がいいと思う。あまりに雑な格好はいけないけど、いつも美奈が外に着ていくような服装で十分。無理に着飾ると本来の自分の良さが消えて、相手にも変な印象を与えてしまうこともある。結局、飾らない自分が一番なのよ」
「なるほど、経験談かな?」

茶化すように私は聞く。

「そ、そうよ。何度も失敗して学んだの」

ちひろは素直に認める。
彼女が私にしてくれる助言は多分、自らの苦い経験から語られるものだ。
そう考えると、私はちひろに心底感謝しなければならない。

「ただ美奈の普段通りだと、子どもっぽく見られるかもね」
「それどういう意味⁉」
「そのままの意味」

先ほどの反撃なのか、ちひろは舌の先を見せて薄笑いしながら、私を揶揄う。

「もう、ちひろってば……。でもありがとう。ちひろの話を聞いたら、緊張も解れてきた。土曜日、私頑張るね」
「頑張るって、何か頑張ることあるの? 本来の目的は買い出しでしょ」
「あ、そっか。け、けど何があるか分かんないし、一応心構えだけはしておく」
「何かあったらそれはそれで問題でしょ。二人は生徒と先生なんだし」
「あ……」

ちひろの何気ないこの言葉が、小さく私の心を抉る。

「そ、そうだよね。ははは……」

私は冗談めかしく笑う。
それが偽物であると、ちひろはすぐに気づいたのかもしれない。
だがちひろはそれ以上、何も言おうとはしなかった。

「ちひろ、今日はありがとね。また明日」
「う、うん。じゃあね」

手を振ってさよならを言う私に、ちひろは微笑んでいるのか憂えているのか判別できないような顔で手を振り返す。

六時過ぎだというのに、空はまだ明るい。
しかしこれから、一気に暗くなっていくのが分かってしまう、そんな様相をしていた。

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