アフタースクールラヴストーリー
「どうして誤魔化そうとするの?」
「え……」
困惑した様子を隠せない副﨑。
聞こえてくる息遣いは、更に荒くなる。
「ご、誤魔化してなんかいません」
「嘘だよ。ねえ、前に僕が言ったこと覚えてる?」
目を合わせようとしない副崎を真っ直ぐ見つめ、諭すように僕は彼女に問いかける。
「そ、それは……」
「僕は君を支えるって言った。多分君も覚えてくれていると思う」
副崎の頭が微妙に縦に動く。
「自分でそう言った以上、そんなに悲しい顔をしている君をそのまま家に帰すわけにはいかないんだよ」
「悲しい顔……」
自分の頬に手を当て、目を泳がせる副崎。
「本当はどうしたいの? 僕の前では、隠さずに全部言って欲しい」
副崎は他人に弱音を吐かない。
家事もやって、生徒会長も務めて、勉強もして大変なはずなのに、一つも愚痴を言わない。
でも、それを素晴らしいの一言で片付けては駄目だ。
彼女が溢した苦しみの欠片を、僕は見逃してはならない。
僕は彼女を支えると自分で宣言したのだから。
「先生……」
副崎が僕の方を向く。
その目には、小さく光るものが浮かんでいる。
彼女は荒くなっている息遣いのまま、糸のようにか細い声で言った。
「……まだ、帰りたくないです……。一人になりたくないです……」
抱えていた寂しさを吐き出したようだった。
今僕の隣にいる副崎は、生徒会長としての凛々しさを纏った彼女でもなく、普段学校で見る天真爛漫な彼女のいずれでもない。今まで僕が見たことのない、ただただ寂しがり屋な一人の少女だった。
そんな副崎の姿を見て、どうして愛おしく感じられないことがあるだろうか。
「分かった。ならもう少しだけ、このままでいようか」
副崎の頭を優しくゆったりと撫でながら、そう言葉をかける。
荒くなっていた彼女の息遣いが、徐々に整っていく。
この行動が間違いなのかどうかなんて、今の僕にはもう、分からなかった。