アフタースクールラヴストーリー
イルカショーが終わり、僕らは会場を出て西館に行くことにした。
「いやあ、すごかったですね」
副崎はショーの最中、終始興奮し続けていた。
それに影響されてか、僕もまだ興奮が収まらない。
「そうだね! テレビで見た時とは全然違ったよ」
「はい! ……あれ?」
副崎はバッグの中に手を入れ、何かを探しているようだ。
「どうしたの?」
「すみません、ハンドタオルを席に置いてきちゃったみたいです。取ってくるのでちょっと待っていてもらえますか?」
「ああ、それなら僕も行くよ」
「大丈夫ですよ。わざわざ来てもらうのも悪いですし」
「そっか。じゃあ取っておいで」
「はい。ありがとうございます」
副崎がショー会場の方へ走っていく。
僕は近くのベンチに座り、彼女を待つ。
すると、一人の女性が僕に声をかけてきた。
「先生、久田先生ですよね?」
「え?」
僕は顔を上げ、女性の方を確認する。
同時に、僕の背中に悪寒が走った。
「呉……葉……」
「やっぱり久田先生だ。お久しぶりです。」
声をかけてきた女性は、僕が去年まで勤めていた高校に通っていた生徒、竹下呉葉だった。
僕は彼女を見上げたまま、何も言えずに固まってしまう。
「何固まっているんですか先生。教え子が元気に挨拶しているんですよ。もっと喜ぶとかしたらどうなんですか」
そう話す呉葉の明るくて気さくな雰囲気は、以前とほとんど変わっていない。
「あ、ああ、ごめんな。いきなりだったから、びっくりして固まっちゃったよ」
「先生のそういうところ、前とあまり変わっていないですね」
呉葉が白い歯を溢す。
「そ、そうかな。でも呉葉もそんなに変わっていない気がするよ」
「そうですか? 大学生になって少しは大人っぽくなったと思うんですけど」
呉葉は自分の服装を見回しながら言う。
「ハハハ……。そういえば、呉葉はどこの大学に行ったの?」
「教知大学です。第一志望に受かることができました」
「おお。教知って言ったら、ここら辺では有名大学じゃないか。おめでとう」
彼女が無事に希望の進路に行けたと聞き、僕は安心する。
だが同時に、僕が彼女にしてしまったことへの罪悪感が、背中から押し寄せてくる。
「久田先生」
突然、真面目な顔をして僕の名前を呼ぶ呉葉。