鈍色、のちに天色
「楓南」
もう1度名前を呼ばれる。
「楓南、もう無理しなくていいんだよ?」
朋也ったら、何言ってるの?
あたし、無理してなんかいないのに……。
「楓南の本当に好きなことをしな?
自分に素直になって生きて」
どういう意味……?
急にそんなこと言われても、わかんないよ。
朋也の言ってることが、飲み込めない。
「十分頑張ってきた。もう、柵(しがらみ)から解放されていいんだよ?」
優しく微笑まれたと同時に、スッと差し出された手のひら。
あたしは引き寄せられるようにその手のひらに手を重ね、歩き出した。
いつの間にか差し込んでいた出口の光。
その光が濃くなってくると、朋也はあたしの手を離した。
不思議に思い、振り返ろうとすると。
「振り返らないで。前を見て、歩いて。
後ろにはもう、何もないんだ」
"朋也?"
大好きな名前を呼びたいけど、声にならない。
そうしていると、背中を押された。
「俺はずっと、楓南の味方だから」
あたしが光に包まれる中、優しく笑顔の朋也が最後に見えた──。