鈍色、のちに天色
「引き止めてごめんなさいね? どうしても、楓南ちゃんにこのことを伝えたかったのよ。……朋也の分までしっかり生きて、幸せになってほしいの。それが、朋也はもちろん、私の願いであるから」
涙が頬を濡らす。
朋也のお母さんの口からこんな言葉が聞けたことが、何よりも嬉しい。
あたしが足を使うことを、生きていくことを認められた気がした。
「14年間、朋也と仲良くしてくれてありがとうね。今日もこうして、会いに来てくれてありがとう」
……やめてください。
そんな、お礼を言うなんて。
あたしのほうこそお礼を言わなきゃいけないのに、涙が止まってくれない……っ。
「……ほらっ、泣かないの! 朋也は楓南ちゃんの笑顔を見たいはずよ! ちゃんと笑顔で、朋也に会いに行ってきなさいっ」
ちょっぴり乱暴に拭われた涙、
ポンッと叩かれる肩。
ごめんなさい、この涙は止まってくれないんです。
だって、あまりにも嬉しくて。
だから涙で濡れたままの笑顔で許してください。
「ありがとうございます……! 本当に、ありがとうございます……!」
深く頭を下げたあと、あたしは朋也のもとへ車椅子を進めていった。