鈍色、のちに天色




***




「あれ、忘れちまったか……っ?」




焦ったようにカバンを漁る君。



そして困ったように辺りを見回す君に、安全ピンを差し出した。




「あのっ、これよかったら使ってください」



「えっ、と……」



「安全ピンがないんですよね? だったら、あたしの使ってください」



「いいん、ですか?」



「はい、大丈夫です。あたしの試合、もう終わったので」



「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」




少し緊張している君が、安全ピンを受け取る。




「試合、頑張ってくださいね!」



「ありがとうございます、絶対返します……っ!」




安全ピンを握りしめ、君は走り去っていった。



太陽の下を駆け抜けるその姿は、とても眩しかった。



あたしは君の後ろ姿が見えなくなるまで、微笑んで手を振って見送った。




***




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