鈍色、のちに天色
「陽希、もう帰ろ?」
「あとちょっと! もう少し練習したいんだ」
「そんなむやみにやったって、タイムは上がらないよ」
「でもっ……」
「ねえ、陽希。大事なこと忘れてない? 確かに、勝ち負けも大事だよ? でも、せっかく自分の好きなことができるんだから、楽しまなくちゃ」
最近の陽希は楽しむことを忘れている。
勝つことに、一生懸命になりすぎている。
こんなんじゃ、勝てるものも勝てないよ。
あたしの言葉を聞いた陽希は、ハッとした表情になっていた。
「そっか……俺、ムキになってた。勝たなきゃって、そればっかり思ってた。楽しむことを忘れてた」
「そうだよ、1番大事なことでしょ?」
「そーだよな、ちょっと肩の力を抜かなきゃな! 俺、着替えてくる!」
「うんっ」
伝わった、よね?
陽希には笑顔が1番似合うから。
だから笑顔でいてほしい。
そのためだったら、あたしは頑張れるよ。