鈍色、のちに天色
「……そう、だよ」
「やっぱりそうだよな。俺、めっちゃ憧れてたんだ! すげー速くてフォームも綺麗で、すげーみんなの目を引いて……」
あたしのこと、そんな風に見てたんだ。
でも、三上くんの”憧れ”の上野 楓南はもういない。
今いるのは、”障害者”の上野 楓南なんだ。
どこか嬉しそうに話す三上くんを、止めた。
「三上くん。その話はもういいって」
「あ、ごめん……」
もう、陸上の話はしたくない。
あたしは走らない。
歩かないようにしてるんだから。
過去の栄光の話なんて、思い出したくない。
でも、シュン、落ち込む三上くんを見て、なぜか少しだけ傷ついた。
「だけど俺、本当に好きだったんだ、上野の走り。みんなを魅了するようで……。だけど……」
チラッと三上くんは車椅子を見た。
”あたしが事故に遭ったから”とでも言いたいんだろうか。
それともなに?
もう一度走ってほしいって?
イライラする。
陸上の話を続ける三上くんにも、そしてなぜか……自分にも。
あたしのイラつきは頂点を達して、爆発した。
「……いい加減にして! 陸上の話はもうしたくないの!
あたしは、もう2度と走らない、歩かないの!」