鈍色、のちに天色
ビューッと強い風が吹く。
その瞬間、買ったばかりの傘が飛ばされた。
「あっ!」
雨空に飛んでいく傘。
手を伸ばすけど、届かない。
走って追いかけることもできない。
ただそれを見てることしかできなかった。
……いつだってあたしはそうなんだ。
再び制服に冷たい雨が染み込んでくる。
「もう、さいあく……」
なんでなの?
なんでこんなに苦しいの?
どうして寂しいなんて、思っちゃってるの?
俯きながら車椅子を押していたのが悪かったのだろう。
石につまずき、あたしは車椅子ごと倒れた。
……痛い。だけどあのときの痛みに比べたら、大したことない。
大したことないはずなのに……
なんで涙が溢れてくるんだろう。
自分でもよくわからなかった。
この涙が何を表すのか、わからない。
────あたしは、一人ぼっちだ。
車椅子ごと倒れて立ち上がれないあたしを、助けてくれる人なんていない。
どこにもいない。
……はずなのに。
「上野っ……大丈夫か!?」
なんであなたは、現れるの?
信じられない、とばかりに傘を差し出す三上くんを見上げた。